文庫ブログの館

シングルマザー卒業と独りよがり小説

小説1

投稿日: 2024年10月27日

店の周りは、小学校でさえ建て替えられていて、他の建物もまったく記憶のないくらい入れ替わっていた。しかし、不審者扱いされるとか、そういう心配はいらなかった。

その文房具屋は私が小学生のころから現在までそのまま残っているのはこの店くらいじゃないかというくらい、古びた店で、もう営業なんかしてないような雰囲気だったがすぐに見つかったし、通りには人っ子1人いなかった。品もそれなりにそろっている普通の文房具屋のままだった。カラカラと扉を開けて中へ入った瞬間、ふわっと懐かしい空気が顔に当たって心地良かった。

 

少しだけ、10歳の頃の記憶が蘇ってきた。未来の自分に向けた手紙を書いた気がしてきた。あいまいな懐かしさと共に、もしかしたら当時の友だちとの再会を目的に、誰かとあの手紙を書いたのかもしれない。もちろんその手紙は届かなかった。誰かがいたずらに書き直して住所まで変更して私に届けた。その程度であってほしい。

しばらくは店内を見て回り、いかにも当時のままというような品ぞろえに違和感を覚えた。その店に着いたのは昼過ぎだったが、時間の指定もされていないので一体どのくらいここに居ればいいのかわからなくて途方にくれた。

 

そういえば店の人もいない。幸いにも店の片隅に休憩スペースのようなところがあり、私はそこの椅子に座って誰かを待つことにした。はあ。なんだか疲れた。昔からこんな椅子なんてあったかな、と小声でつぶやきながら店の中を見渡したが、特に鮮明な何かを思い出すこともなく、自分について考えていた。

正直、50年生きてきてこれといって特別なことは何もなかった。どうにもならないようなことにも遭遇しなかったし、生きてこられただけ素晴らしいじゃないかと言う人もいるけど、自分が何故存在しているのかどうでもよくなって惰性で生きている状態だ。

0歳で結婚して離婚して一人で生きてきた。すぐ離婚したのは自分以外の誰かと暮らすことが出来なかったからだ。そういう人間は私以外にも少なからずいるはずだ。60歳で定年退職してその後は一人で引きこもるのが私のある種の夢だ。世間はやれ社会とのつながりが大事だとか、何らかのコミュニティに一切属していない老人が認知症になりやすいとか、普通の人は数カ月で飽きて孤独に耐えられなくなるから仕事は続けた方がいいとか、言いたい放題だ。

本当にそうなんだろうか。普段から一人が好きな私も、それが本当の一人ではないから真の孤独がわからないだけなのだろうか。引きこもりも部屋を出れば親がいるからこそできることなのだろうか。

 

確かに、実際私は一人ではなかった。30のときに子供を産んでいる。去年の暮れまで育ててきたが、20歳になった娘は出て行った。いや正確には追い出したと言った方が正しいかもしれない。

彼女のおかげで私は好きでもない仕事を続けてきたし、そのおかげで大学まで入れることもできた。親子二人で暮らすことが当たり前で、特に何も感じてはいなかったが、18で成人してからはただの同居人としてみる瞬間もあり、いわゆる誰かと暮らせない私は急に一人になりたくなった。

そんな母親の気持ちを察したのか、20歳の時に一人暮らしがしたいと言って出て行った。

 

ふと、この20年はなんだったのだろうと思うことがある。こんなことなら離婚したときにさっさと親権もむこうに渡しておけばよかった。子育てもしていない父親に会いに行くという娘に、私が引き留めたりする権利があるとは思っていない。だが純粋に20年の私が0年の父親に逆転負けしたような気分になった。文字通り、逆転サヨナラ負けだ。もうどうでもいい。私は自由だ。そして新年を迎えたところにこの手紙が届いたのだ。

私は手紙を眺めていた目線を上に戻した。

 

「ひゅ!」息をのんだ。考え込んでいたせいで、目の前に人が座っているのにまったく気がつかなかったのだ。私はみたこともない子供が自分を凝視していることに言葉も出ないまま、しばらく固まっていた。そこに小学生くらいの女の子がいた。

 

「えっと、何かな?おばちゃんに用?」子供は嫌いだがしかたがない。話しかけるとその子は、

「えっと、何か違うんですけど」と言ってキョロキョロし始めた。誰かを探しているのか。

「あ、いたいた!」そう叫ぶと店の商品棚を物色している女性のところへ行ってしまった。

ほっとした私は、暇だったのでしばらく二人をさりげなく見ていた。

女性と言っても若そうだ。お姉さんかな。20歳いってるかいってないか、そのくらいのお姉さんは、棚にある大量の練り消しゴムを手に取ってうれしそうに「これこれ、やってみたかったんだよね」と中身を全部出すべくテーブル、すなわち私の方へやってきた。女の子は「私も」と言って一緒になって全部をこね始めた。

 

「え」私はそれって買ったの?万引き?いや店内で堂々とそんなことするわけないか。店の人は?とイラっとしながらもうろたえた。二人はそんな私を無視して楽しそうに遊んでいる。

そういえば練り消しゴムなんてまだ売ってるんだ。自分も昔はよくこの店に来たが練り消しは買ったことなかったなぁ。色や香りつきの可愛いやつで、買いたかったけど結局普通の消しゴムを買った気がする。練り消しは本来は絵を描く人のアイテムらしいが、子供にとってはおもちゃみたいなものだ。飽きたら終わり。というか、何が面白いのだろう。イライラが増してきた私はその場を離れようと椅子から立ち上がった。一度店を出るか、と入ってきた扉の方を見た瞬間、

 

「どこいくの?ここに居てくれないと困るんだけど」

お姉さんが私に言った。

 

「は?」戸惑う私に女の子がにっこり笑って言った。

「その手紙、出したのわたし!」

 

夕方には店が閉まるので、私はいったん駅前のホテルに戻ることにした。もちろん明日は朝の10時に店に来ると約束したので16時間後にはまたここに来ることになるのだが。いや、あの子とは二度と会わない方が良いのかもしれない。私は自分に起きていたことに恐怖を感じるしかなかった。外は薄暗くなっていたが3月にしては暖かかった。ほっとして歩き始めた私に向かって、小学校の方からお母さんと男の子が走ってきた。まるで私が店から出るのを待ち構えていたかのようだ。

「先ほどはありがとうございました」

「はあ。」

知ってる人ではなさそうだ。男の子をちらっと見てから母親の方に視線を戻すと、その人は話し始めた。どうやら自転車で転んだ男の子を助けた上に、乗り方まで教えてあげたらしい。この私が。

「おばちゃんのおかげで自転車乗れるようになったよ」男の子が嬉しそうに言った。実感がわかないまま、そっけない態度で会釈だけしてその場を離れた。

振り返ると親子がきょとんとした顔でこちらを見ていた。

 

「あのさ、勝手に人助けとかしないでくれる?」

「なんでよ、もっと人と関わろうとしなよ」

「そういうキャラじゃないんで」

「つれないなぁ。そんなんじゃ孤独死するよ」

「はぁ」

「やっぱいいねぇ。自分の意志で行動するのって」

「話しかけないでくれる?不審者みたいに思われるでしょ」

「独り言だと思うでしょ。それに誰もいないし」

 

とにかく、ホテルで整理しよう。今日何が起きたのか。駅のコンビニで買い物をして部屋で食事することにした。買い物かごを持っておにぎりを眺めていると、

 

「私はツナマヨと豚キムチね」

と横から2つ放り込まれた。

「ちょっと、あなたも食べるの?」

「食べるでしょ」

「ちょっと待った。私は梅干しと明太子を食べる」

「4つも食べたらどうなるのかなあ」

 

ふふふ、と不気味な笑みを浮かべてレジの前でから揚げを選んでいるのを無視して会計を済ませた。お釣りを受け取った手がそのまま募金箱へ伸びた。

 

「ちょっと」

「何?良いことしたいでしょ?」

 

店員が、本来は感謝の言葉を発するべきところなのに怪訝そうに私を見た。完全に頭のおかしなおばさんが独り言を言ってるようにしか見えないからだ。

 

私と一緒に文房具店から出てきて、ホテルまでついてきたのはお姉さんの方だ。どうやらこの子は私とは真逆の性格のようだった。本来の私なら絶対にしないような言動をとるのが好きらしい。本来の私とは何かというと、そんなことはどうでもいい。私は私だ。そしてこの子も私だという。現実として受け入れがたいことも世の中にはあるのだと思った。この子は私があの文房具店に入って考え事をしている瞬間に外に出て、自転車の子が転んだところに駆けつけた。私がぼけっと座っている間に男の子に自転車の乗り方をマスターさせた。そして練り消しで存分に遊んだわけだ。

 

自転車。そういえばベビーカーを卒業した娘を保育園に送るために自転車を買ったんだっけ。この土地で小学生の時に少しだけ乗った程度でそのまま30年過ぎ、まさか自分の子供を乗せるために自転車に乗ることになるとは意外だ。でも一度乗れた自転車だ、すぐ乗れるようにはなったが前に重い荷物、後ろに娘、状況が違って苦労した。そして娘はというと、私が教えるまでもなく、いつの間にか乗れるようになっていた。教えた記憶がないことに気づいた。ああ、思えばそういうところが今につながっているのかもしれない。

 

募金箱にお金を入れる人のことも、ただの面倒くさがりか偽善者としか思っていなかった。たかが数円寄付して満足できたのだろうか。財布の小銭が重いから自分のために入れたのではないか、そしてそう思われているだろうと思うと寄付なんか絶対にしたくないのだ。子供にお金を握らせて募金箱を持つお兄さんにところへ行かせる親も親だ。自分も入れに行きたいと思ってるだろう娘に気づいていたが無視したこともある。

 

考えるだけ自分が相当な毒親だったのではと思えてくる。毒親にとっての20年、確かに空っぽなわけだ。でもだからって娘に父親を選ばれても自業自得とまで言えるのだろうか。そんなのは父親に20年育てられてから判断するべきだ。当の子供からも国からも感謝されずにお役御免だなんて、子供なんて産みたくないという人は実は大正解なのだ。報われないのにやる、無償の愛なんて言い方は嫌いだ。産んだからには責任をもって育てるのが親の義務だ。

 

シャワーから出ると、もう一人の私は居なくなっていた。おにぎりも2つ無くなっていた。そして何故か食欲がなくなっていた。やはり体は一つらしい。他の人には2人としては見えていない。私だけなのだ。つまり、私の妄想という話なのだろう。おにぎりを冷蔵庫に入れて翌朝にまわした。

 

満足?

 

あの店でしか表面化しないのかと思ったら違ったのだ。あの店で初めて私が気づいた、気づかされただけのことで、昔から、正確には20年前から、私がもう一人いた。

 

疲れた。

 

もしかしたらずっと疲れが取れないのは更年期の体が原因ではないのかも。夜な夜なもう一人の心の若い私が動き回っていたのかもしれない。あたかも今日、あの店で初めて自分で行動したっていうのも嘘なのかも。いや、それはないか。自分のことくらい信じなければ。いつの間にか睡魔に取りつかれて眠っていた。

 

姉妹のような女の子とお姉さんに見つめられて、この不可解な状況を理解しなければならないと思った。

「え?あなたがこの手紙を書いたの?」

「そうだよ。」

「いつ?」

「うーん。昨日?」

「は?」

もう少なくともここに居る全員、頭がいかれてるのだろう。そもそもあんな手紙につられてこんな僻地までわざわざ来る私もどうかしているが、この二人はそれ以上におかしい。

 

「あなたいくつよ」

「10歳?」

「学校で書いたのかな?」

「うんにゃ」

「うんにゃ?」

「手紙、来なかったなぁって。だから自分で書いてみた」

「ほう?で?」

「ほんでここに来たら会えた!」

「あなた名前は?」

「え?なんで?ゆきだよゆき!」

 

あっけにとられて、お姉さんの方に助けを求めた。こちの方がマシだろう。

「あなたは?誰なの?この子のお姉さん?」

「だからユキだってば」

「は?」

「もう、やっと気づいたんだから」

「私?」

「そう私」

 

いったい、いつから自分がいわゆる多重人格者だったのか。どうやら今の私が30歳のときに「生まれた」らしい。娘を産んだ時に一緒に生まれたのだろうか。何故?出産が精神を分裂させるほど大変なことだったとでもいうのだろうか。いや、この瞬間から己を犠牲にしてこの子のために生きていくと決意したあの時に、殺そうとした自分を別人格として生かしたのかもしれない。産後うつは無かったと思っていたが、実は深い闇は心の奥底で育ち始めた。いやいや、それは違う。どちらかというと私が闇で、ここにいる2人が本当の自分なのかもしれない。

 

「どっちも自分だよ」

思考を断ち切るように言われて、我に返った。

 

「ここはね、たぶん記憶の場所なんだと思う。この子は10年まえの私。」

ユキが言った。

「そう、20歳のユキちゃんに会いに来たんだもん」

ゆきはそう言ってユキに飛びついた。なるほど、それであの手紙か。妙に納得できた。

 

どうやら私の我があまりに強くて、生まれたもののそう簡単にはでしゃばって来られなかったらしい。ユキに至ってはこの店に入った瞬間、初めて私から出たものだから嬉しさのあまりそのまま外に出て行った。それだけの話だ。私の体を使って遊びほうけるとかそういうことはしていなかったと思われた。私だって自由が欲しかったとしても子供を放置して遊びに行くとか、男を作るとか、そんなこと心底したいとは思っていなかったのだから当たり前だ。

せいぜい練り消しで満足しただろう。

むしろ、もっと壮大な夢とかなかったのか?と自分にがっかりした。

 

 

朝、起きてもユキはいなかった。好きじゃないおにぎりだから食べたくなかったのだろうか。

早々にチェックアウトしてホテルを出て、店に向かった。10時と言っていたが、8時にはそこについてしまった。

「あいてないか」

「あけちゃお」

 

となりにユキがいた。

 

「あなたさ、私から出たり入ったり、自分の意志でできてるの?」

「実はさ、できないのよ。私もあなたの意志だから」

「ふーん」

なんだかやっかいだな。

 

ガタついているその扉は鍵がかかっていなかった。中に入るとゆきがいた。待ち合わせの時間のだいぶ前に集合できるのは私ならではだ。我ながらおかしくなって笑ってしまった。

さて、再び三人がそろったわけだ。ゆきがユキに会うために手紙を書いた。結局それだけのことなのだ。私は不思議な体験をした。あとは帰って今まで通り一人で生きていくだけだ。死ぬまで。

 

「それで、なんでこの店に集合させたの」

私はゆきに聞いた。妄想だけなら別に自宅でだってできるだろう。

「それは、私が練り消しゴムで遊んでみたかったから」

ふふふ。ゆきが笑った。

「だって、みんなと同じものを買って無駄に遊びたかったの、我慢してたから」

「それはつまり、私が10歳の時の記憶と同じってこと?」

そんなしょうもないことをいつまでも心に残していたってことですか。我ながらバカかもしれない。絵描きにでもなっとけよ。

 

そういえば美術の成績は良かった。自分が描いた絵で生活できるくらい稼げるなら夢をもてたかもしれない。でもそんな夢を考えたこともなかった。冷めた自分がいたのは事実だ。特に学びたいこともないのに大学まで行って、就職が嫌だから大学院へ行くということはせず、普通に生きていくために会社勤めを始めた。結婚したいわけでも子供が欲しかったわけでもないのに結婚した。そして子育てをごく普通にこなして、ここで練り消しゴムで遊ぶという結末を迎えた。夢を叶えたとでもいうべきか。

 

「それで20歳のユキに会えて満足したのだったら、もう帰って良いかな」

といってもユキはもしかしてこれからも私にくっついているのだろうか。他人と暮らせない私もさすがに自分となら生きていけるのだろうか。

 

「私は10年前に戻るけど、何か10年前の自分に言いたいこととかないの?」

ゆきが聞いてきた。確かに、そこまで考えてなかった。今、もう一人の自分が現れたということは10年前の自分もこれから2人になるということか。40歳の自分と10歳の自分。

現実で10歳の娘を育てている自分だ。

 

「娘は塾なんかに行きたくなかったのかな」

ぼそっと声が出てしまった。私が子育てに後悔なんてありえない。でも母子二人きりで喧嘩したって娘の味方はいない。親の言うまま、嫌々だったのだろうか。子供にお金をかける親でいることに自己満足しているただの毒親だったのだろうか。

 

「ちゃんと本人の意思を確認してから中学受験させてあげれば良かったかな」

「うーん、じゃあそこはよく聞いておくよ」

ゆきが言った。

「戻れるのは10年前だよね。結婚しなきゃよかったとか、離婚しなきゃよかったとか、そこまでは戻れない?」

あえて「産まなきゃよかった」は口に出さなかった。

「それは無理」

 

結局、私はどうしたいのだろう。娘に出ていってほしくないのか。そんなわけない。実際、今は一人で快適に暮らしているのだ。子供部屋おばさんなんかになられても困るのだ。

 

「いやあ、子育てに関しては別に間違っちゃいないと思うけど」

ずっと黙っていたユキが口をはさんできた。

「親子なんだからさ。そんなことより、私は自分がよくもまあ同じ職場にずっといるなって」

「それは学費とかお金が必要だからしょうがないでしょ」

私には仕事と子育て以外にやるべきこともなかった。とにかく人と関わりたくなかった。そこは修正したいなんて思っていない。現状で満足だ。本当に?

 

「まあ、とにかく、娘にはしっかり勉強させてよ。あいつ、国立大学落ちたの未だに悔んでるから。もっとガミガミ言って勉強させるべきだった。教育ママ的に」

その方が金も浮くし、その分早くリタイヤできるかもしれないし。でも過去が少し変わったくらいで今の何が変わるというのだろう。

あいにく宝くじの当選番号も言えないし、賭け事もやってないからできない。調べて金持ちになっていたとしても怖すぎるでしょ。為替とか?10歳のバカゆきに言ってもFXとかできるわけもない。震災も起きた後だし。この10年間に世界で何があったからといって、私が何かできることなんてあるはずない。頭がまわらない。本当にバカだ。自分がもっと勉強しとけよって。

 

気づいたら昼になっていた。そろそろ帰らないと明日からの仕事に差し支える。もう50なのだ。

私以外の二人は名残惜しそうにしていたが、結局のところ真面目な「自分」なのだ。

「じゃあね」

と言って私たちはゆきを残して店を出た。

駅に向かっていると、昨日の男の子が走ってきた。

「おばちゃん」

ユキはいない。仕方ないので私は返事をした。

「こんにちは。今日は自転車じゃないの」

「おばちゃんこそ、昨日も今日もここで何してたの?」

「え、私はそこの店に用事があってね」

そう言って振り返って息を飲んだ。

視線の先に文房具店はなく、草の生い茂った空き地があった。

 

「ね、ねぇ、あそこに文房具屋さんあったよね?」

「文房具屋さん?ないよそんなの。なんで?」

 

まさか店までも?全部妄想なのか、私は空き地まで戻って立ち尽くした。男の子もついてきたが、いつもの光景をみるように言った。

「ここ、ずっとこんな感じだよ。昨日もおばちゃんここに立ってたよね。」

「そ、そうだね。」

第一章 第三章