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シングルマザー卒業と独りよがり小説

小説2

投稿日: 2024年10月27日

ってか、一回会ったくらいで調子乗んなよ。意気投合したとか勘違いすんじゃねーよ。あなたが得意先の人だからでしょ?わかれよ。嫌われたりしないように愛想ふりまいてるだけなんですけど。金持ってるとか関係ないし。超絶イケメンとかダンディーとかならこっちからお願いしたいけど、そうじゃないでしょ。誘ってこないでマジで。断るの結構ストレスだから。会社辞めたいレベル。

どいつもこいつも暇なの?そうでもしないと女とデートもできないの?そもそも顔も見たことないくせに、感覚おかしくないですか?こっちがいけなかった?頑なにお断りしておけばよかった?会ったことがなんかOKとか思われたのならごめんなさい。違うから。というか、ただ会うって時間の無駄だし、こっちはそんな暇ないから。面倒くさいから。勘弁してください。ちゃんと空気読んで消えてく人とか見習ってくださいよ。見合いじゃないんだから。無給の仕事だからこれ。営業ってみんなこうなの?ってか社長に気に入られないと昇進もできないわけ?

結局「女はいいなあ」って他の無能を安心させるためですかね?圧に耐えられなくてアドレスとか教えたこっちが悪いんですかね。無視していいっすか。プライベートなんで。普通にお客様に対応してるだけでなんか普通と違う感情沸かせるのやめてもらえませんかね。ほんと体調不良続きでこいつは病人だって思ってくれませんかね。凝りもせず誘うのやめてくれませんかね。

一期一会で人との繋がりは大事だっていう人もいるけど、うざいと思ったらもう違いますよね。なんのメリットも無いんです。片方だけに幸せを感じさせても大した見返りないんで。そういう仕事じゃないんで。普通のメーカーの営業なんでね。別に数人の顧客の売上が増えたとか減ったとか、業績にまったく影響しないんです。上から見るのやめてくださいね。こっちは社内でもストレスフルなんで・・・


 カタカタとパソコンに打ち込んでいる間にもメールが着信する。保存しますか?にいいえをクリックして電源を切った。昨日は昨日で宇宙人がおばさんに私ってこわいかな?と聞かれて、んなことねーよって言って肩を抱いてる現場を目撃してしまい、思わず道を変えてしまった。

宇宙人はなんであんなヒステリックな女と不倫できるのだろうか。奥さん、洗濯板に梅干しなんだよな。って言ってたけど、だからって他の女と不倫する?しかも性格悪いおばさんと。そんなことを考えながら駅に向かった。


 仕事するふりをして時間をつぶして。それで向かったのは、最近やっと一人で行けるようになった居酒屋だ。なんとなく、一見さんお断り風の小さな店だ。時間をつぶしてから行ったのは、開店からある程度時間が経ってから覗いてみて、誰も居なかったら入ろうと決めているからだ。その方が少しは感謝されるだろう。もちろん人が居たとしても入るときは入るのだが。


「はいお疲れ様でした。」
 もともと、宇宙人が連れて行ってくれたのが最初のこの店だが、私に手を出すのは無しだなと判断した宇宙人と、わりと楽しく先輩後輩としてワインを飲んでいたら、おばさんが入ってきて一瞬で鬼に変貌したといういわくつきの店だ。何故か慌てて鬼をつかんで出て行った宇宙人はそれきり戻ってこなかったが、私は店の人と会話の続きを楽しんだ。以来、一人で顔を出している。

宇宙人か鬼が居ないか確認するわけだが、店の人も「もう二度とこないっしょ」というくらいだからあれから一度も来ていないのだろう。というか、私はなるべく人がいない時に飲みたいのでそうしているわけだが、店の人はなんとも思ってないらしい。これはまったくもって私が客の立場だ。優しくされても勘違いしてはいけない。彼は仕事で私は客なのだから。


 「ちやほやされてるうちが華だって」
 わかってはいるけど、なんで宇宙人レベルの人間にしか興味をもたれないんだろう。まともな人が寄ってこない。素敵だって思った人は必ず別の方向を見ているし。


 「マスターはさあ、客見て対応とか変えてんの?」
 「まさか。平等です。」
 ふふって何その笑みは。むかつく。まあいいや。今を楽しむための場だもんね。ここを出たらまたいつ宇宙人に出くわすやら。

 

 

きもいんだよ。ほんっと。だからお前なんか結婚できねーってみんな言ってんだよ。お前が知らないだけだろって。みんな優しいから気づかせないだけで、その年でいまだに親の家に住んで、トイレ掃除もしたことなけりゃ、朝も夜も上げ膳据え膳って。

人に嫌われてるとも思ってないし、嫌われることを恐れてもいない。どうしたらそんな境地までたどりつけるんですかね。自分が腫れ物扱いされてるっていい加減にわかれよ。ある意味幸せなの?いや、幸せじゃないからそんなご機嫌斜めで。嫌いな人は無視して好きな人にはおえってくらいの愛想ふりまけるんでしょ?イライラしてるんでしょ?かわいそうに。

親が死んだらどうすんの?そいういう奴ほど親より先に死ぬのかね。将来に対してなんの憂いもなく。これって羨ましいのか。定時ピタって。一生休んでろ。


 「あ、やばい。」
 また無意識のうちにタイピングの練習をしていたようだ。一瞬で消去し、振り返ってにっこりした。


 「何かご用ですか。」
 後ろに鬼が立っていたので半分開き直って声を出した。ちなみにあなたのことではありませんよ。と言いかけてやめた。読んでないでしょ。老眼でしょ。


 「あの店、行くのやめてくれない。」
 だって。うける。あんたの店じゃあるまいし。マジで辞めたい会社。
 「あ、はい、行きませんよ。」
 今日はね。さっさと片付けて出てきた。これも無視されたとか報告されちゃうんだろうね。どうでもいい。なんだかなあ。

 


 「おーい。」
 タクシーが止まった。運転手はあいつだった。無言で乗り込み住所を告げた。
 「わかってるって。」
 でしょうね。こいつは昔私が乗ったときに、いきなり歳を聞いてきた男だ。その時は友達と深夜まで飲んでいて、ナンパしてきた外人が一緒に乗り込んできそうになるのを急発進して逃げてくれた。友達を先に降ろして次の住所を告げた時、いきなりルームランプをつけやがった。


 「ほんとに未成年じゃないの。」
 ほんとは未成年だったけど。いやぁ若く見られちゃった。なんて喜べるわけもなく。未成年だったらなんだってんだ?通報するのか?おっさんよ。
 おっさんが言うには、世の中、宇宙人ばかりだから気をつけなきゃダメだと。うーん。実際は外人あさりに行ったようなものなのに、ナンパしてきたのが微妙な外人だったから逃げただけだ。


 「その宇宙人にしか、相手にされないんですけどね。」
 とつぶやいて寝たふりをした。何もかも面倒くさい時は寝たふりが良い。でもそれが誤算だった。タクシーが止まって動かなくなったので目を開けたら、交番の前だったというオチ。おいおいおい。


 「どうする?おれと付き合う?」
 おまえも宇宙人だったか。というのは冗談で、結局家に着くまでの間、ずっと説教されていた。けどそれがなんか心地よくて、おっさんなのに何故か会話が弾んだ。名刺をもらったので、たまに帰りの手段がないときは電話したし、いつも来てくれた。ちょっと変わった宇宙人だ。
 宇宙人が会社の近くまで来るのは初めてだった。

 

 

世の中、そんなに出会いが少ないのかね。たまたまタクシーの運転手でたまたま拾った女にこんなに執着しなきゃいけないほど飢えてるって。怖いんですけど。未成年で酒飲んで遊びまくるくらいの女だからワンチャンやれるんじゃないかってところなんかな。たしかに思わせぶりにあんたを呼びつけてきた私もバカだったけど。とりあえず私は客だったし、ちゃんと金も払ったし。あ、払ってない時もあったかも。

社会人数年の若さでタクシー乗りまくってるような女、どう考えてもバカでしょ。相手したくないでしょ。そんなのに構わないといけないくらい暇なのかバカなのか、なんなのか。そう考えるとイラついてきた。当然のように家まで送ってくれたので、これ以上一緒にいたらそのうち刺されそうな予感がするからと降りた後にお礼と共に二度と来ないでくれと言ってタクシーが見えなくなるまで見送った。

たぶん私があいつのことを好きで今日こそは告白でもするだろうという期待をもって現れたのかもしれない。残念。私はそう簡単に人を好きになったりしない。その前にほぼほぼ嫌いになるから。一度ウザったく思ったらもう無理。無理。無理。

 

 

今日は行かないと言ったけど、やっぱ行くか。結局駅まで歩いてまた電車に乗った。何してるんだか。ちょっと待てよ。マスターに会いたいわけ?うそでしょ。鬼がいたらどうすんのよ。ってかなんで鬼はあの店に行きたいのか?まさかババアのくせにマスターに会いたいとか?

すげー。ちょっとワクワクしてきた。そんなわけないか。鬼も宇宙人もいなかったけど客はいた。はあ。やめた。バカみたい。マスターに会いたいわけじゃない。ホストクラブでもいいくらいだ。金払ってチヤホヤされる。合理的じゃないか。タクシーより高くつくけど。

 

バカみたいに今日は家と会社を2往復してコンビニでビール買って家で飲んで寝た。27歳くらいまではこんな生活もありでしょ。許して。