小説0
投稿日: 2024年12月14日
「なるほどね」
私がつぶやくと、店のおじさんが話しかけてきたのでいくつかのパンを注文した。お金を置いて彼がパンを包むのを待つ間に、後ろをキョロキョロする感じにふり返った。こっちを見ていた女が人ごみにさっと隠れた。同時に、少し離れたところに警官らしき人が立っているのを確認した。
さて、どうしようか。出来れば警官に助けてもらいたい。だがこの状況だ。どう考えても怪しいのはここでは外国人となる私だ。下手に騒いだらきっと撃たれて死ぬのは私の方だろう。それを避けるために多少のリスクを負うのは必須だった。
女が近づいてくる気配を存分に感じたので、私はパンを放棄してその場を離れた。出来るだけ警官の近くに向かう。でも近すぎてもダメだ。私が一撃を食らってからでないと。そう思った瞬間、背後からナイフが私の腕をかすめた。あまり軽傷だと誰にも気づかれないので、完全によけることをしなかった。おかげでその一撃は結構な感じでヒットした。
「きゃー!」
誰かが叫んだ。そりゃ腕から血が噴き出した私と、ナイフをもった女が対峙しているのだ。驚いてくれないとあの警官に気づいてもらえない。
思ったより深くいっちゃったかもしれない。後悔しつつも、女の次の攻撃を足でかわした。女が数メートル下がってこっちをにらみつける。ナイフを落として今度はポケットから銃が出てきた。うそでしょ。さすがにこれは避けないと。だか避けられるわけない。幸い銃の扱いに慣れていないのか、一発目は私の頬をかすめただけで済んだ。そして二発目、やっとこっちに到達した警官が迷わずイギリス人であろうその女を撃った。外国って恐ろしい。
威嚇もしなければいきなりパンパンって何発も撃って良いものなの?それとも何か叫んでた?
私はその場に倒れこんだが、パン屋のおじさんが「大丈夫か?」と私を起こしてくれた。
「あ、パン食べ損ねちゃうね」
ふふっと笑う私を心配そうに支えておじさんは「パンは届けてあげるよ」と言ってくれた。まあ、どうでもいいけどね。食欲ないし。女がどうなったか確認できない状況で、彼女を撃った警官が私のところへ来た。
「大丈夫?君は?」
私が何と答えようか悩んでいると、周りにいた人々が口々に「あれはキャサリンじゃないか?」と倒れている女について言った。自分や家族と無関係、テロとかではない事件。だから逃げずにそしてそんなに冷静に口を挟めるのか。チラッと視線を向ける先には倒れた女がピクリとも動かない。
ああ。思い出した。キャサリンね。ジョシュアの彼女だ。いや、元カノ?
ふっと、全てに納得して同時に意識が遠のいた。
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