小説0
投稿日: 2024年12月7日
そうこうしている間に、飛行機のチケットを手配したからと連絡が来た。私はパスポートの期限が切れていないことを確かめ、イギリスに行くことにした。
仕事も辞めた。一週間も休むくらいなら辞めてしまった方がいろいろと悩まなくてすむからだ。辞めると言っても私はフリーなので契約している人たちにその旨を伝えただけだ。正直、どこででも仕事はできたが、旅行にトラブルはつきものだ。漠然とした不安が頭をよぎっていたが、まだ気にするほどではないと判断し、荷造りを続けた。
手配された飛行機は日本時間の午後遅い時間の出発だった。海外は学生時代に一度行ったきりで慣れていない。問い合わせたらファーストクラスのチケットだった。ビジネスでも乗りたくない。素直に受け入れたら後が大変かもしれない。借りを作るようで気が引けた。当日までどうすべきか考えていたが、やはり分不相応だからとカウンターでエコノミーに変更してもらった。その日は朝イチで家を出たので、予定の便よりも随分早い飛行機に乗ることができた。返金されたことに気づけば到着時間もわかるだろうが、どうでもいいか、と彼には連絡しないで飛び立った。
ビッグサイトでの貸しとは比べ物にならない金額だが、彼が「こないだのお礼だ」と用意してくれたチケットでイギリスまで行けるなんて、ラッキーだ。「えびたい」どころではない。以前、プラスチックのおもちゃの指輪を酔っぱらった男に壊され、後日お詫びとしてプラチナの指輪をもらったが、その時は周りから「えびたいじゃん」といじられた。そんなつもりはないのに、そもそも勝手に私の指から外して自分の指にはめ、抜けなくなったからといって「パキ」っと壊したのだ。私の意図するところではない。それでプラチナというのは、多少は私に気があったのかもしれないが、告白されるわけでもなかった。世の中にはどうにもはっきりしない人が多すぎる。私はなんなら秒で白黒はっきりさせるのが大好きだ。
二度目のイギリスには昼過ぎに到着した。ファーストクラスなら結構遅い時間に着くからと迎えに来てくれる予定だったが、おそらく今は前日のリハーサルで会場入りしてるはずだ。私はそのまま会場までタクシーで向かった。
驚くだろうか。というより、予定外に登場するとろくなことがないのがお約束じゃないか。もしかしたらあの彼女とよろしくやってるかもしれない。そこへ私が顔を出したら相当面白い展開になりそうだ。まるで浮気現場に突入するかのように興奮してきた。付き合ってもいないのに。
ガラガラとスーツケースをひいた怪しげな女は、当然だが中に入れてもらえない。
仕方が無いので「ジョシュアに私が来たと伝えてくれ」と警備員にお願いした。「私」が何者かも確認しないで警備員は中へ入ってしまった。
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