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シングルマザー卒業と独りよがり小説

小説0

投稿日: 2024年11月30日

東京ビッグサイトに来てみたのはいいけど、今日がいわゆるあのビッグイベント開催の日だということを忘れていた。というか知らなかった。このチケットがそれのだったとは。なんでちゃんと調べもしないで引き受けたんだろう。会ったこともない人の依頼を引き受けるのは二回目だ。まだ目的さえ知らされてないのに。

 

まずい。こんなに人がいてこんなに天気も良いと何しに来たかわからなくなってしまう。コスプレしている人だらけで、きっと中はもっとすごいのだろう。

私は人がいないところ、ビルとビルの間のようなところに身を潜めていたが、今日は諦めて帰ろうか、渡されていたスルーパスのチケットでこのイベントの中へ入るべきなのか、悩んでいた。

 

 

 

「え?駐車場なの?まだ。場所わかんなくてさ。まいったな。」

というような英語が聞こえてきた。そしてスマホをポケットに入れキョロキョロしている。

今日は外国人もわんさかいるだろうが、勝手がわからないと思われる男の子が一人で右往左往しているのに出くわした。仲間とはぐれたか、そんなことよりやっぱり退散しようと駅の方を見た瞬間、その男の子と目が合ってしまった。

 

「あれ?」

男の子、といったら怒られそうだが私は二十五だし、彼は二十歳くらいにしか見えなかったが、イギリスで活動している何かのグループの一人に似ていた。たしか彼は日本贔屓で日本語も流暢だ。なんで私が知っているかって、彼らが数年前からよく日本のメディアにも登場しているからだろう。でもちょっと知っている程度だ。彼らの歌う曲もほとんど知らない。

 

 

「ジョシュア?」

思わず聞いてしまった。こんなところに有名人がいることがバレたら大変だ。言った後でそれが独り言だと思わせるように、彼の返事を待たずに離れようと一歩動いた。だが容赦なく彼は私を捕まえた。

 

「ね、ここに行きたいんだけど、わかる?」

私はつかまれた手をつかみ返して、無理やり隙間に戻った。

 

「なんでこんなところにいるの?お付きの人は?マネージャーは?」

「大丈夫大丈夫。僕に気づいたの、あなただけ」

 

にっこり笑って言われると何も言えなくなる。私は無意識のうちに自分のマフラーを取って彼の顔に巻きつけた。彼の顔に手が触れたとき、不思議な感じがした。けど気にしない。カバンから紫外線除けのメガネを取り出しそれもつけた。

 

「とりあえず、声とか出さないでくれる?」

コクコクうなずいた彼をつれて隙間から出た。よし、大丈夫だ。誰もこっちを見ない。まあみんなそれどころではないか。

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