小説0
投稿日: 2024年12月28日
相当な時間が経っていたらしく、ジョシュアが「もう着くけど何かいる?」と連絡してきた。ホテルに電話するのも面倒だろうから、スマホは返してね、と念押しして、餃子を百個焼くことを伝えた。
「餃子」を知っているらしく、百個も誰が食べるんだという話になって、結局メンバー三人もホテルへやってきた。予期せず、廊下の知らない警官も含めての七人で餃子パーティとなった。
こういうのは嫌いじゃない。やっぱり他にも何か作っとけば良かったかな。
私自身、餃子は食べても十個が限界だが男の人には十数個じゃ少ないかもしれない。あっという間に全部食べてしまった。後半の五十個は知らない警官が「やってみたい」といって焼いてくれた。焼くだけなので上手いも下手もないが、どちらも美味しかったと全員が満足したのをみて、私はイギリスに来た甲斐があったと初めて思った。
私と警官以外の人がアルコールを接種したせいもあり、思わぬところで私は生歌を聴くことができた。結果的に二日目としてはなかなか充実した一日となった。
翌朝も先生がやってきて傷を診てくれたが、あとはもう自分で手当しても良いと言われたので、飛行機に乗るのも大丈夫、ということになった。
ジョシュアもホッとしたような顔をしていたが、私が荷造りを始めたのをみて、あわててサムを呼びに行った。警察によると、事件はまだ解決していないとのことで、日本に帰ったら警護ができなくなるので少なくともジュリがみつかるまでは留まって欲しいということだった。
「でも予定より長くは居られないよね」
「そこは特別に考えているから大丈夫」
どうやら、というかやはり違う意味でも目をつけられてしまったのかもしれない。そこは知らんぷりで通そう。余計なことは言わない、関わらないのが一番だ。そもそもこの国と私は何の関係もないのだから。
しかし解決するまでずっとホテルの部屋にこもって何をすればいいのやら。ジョシュアが異常に心配しすぎているだけではとも言ってみたが、受け入れられなかった。どれだけの女性に恨まれているのやら。
別にパソコンがあれは何日でも籠っていられるが、それは一人でなら、という条件付きだ。パソコンを持ってることもそのうち知られてしまう。今日は彼もお休みらしいから一日中、ここで二人で何をすればいいのやら。甘い時間を過ごすのもありなのだろうが、そんな気分にはなれない。とにかく外に出たい。
もやもやしていると、ジョシュアが提案した。
「僕のうちにくる?」
その方がここよりかはチャンスはあるかもしれない。私は喜んでその話に乗った。冷蔵庫の中身を使い切ることなくホテルを出るのはもったいなかったが、ジョシュアの家とやらが豪邸なのは想像できた。彼はいわゆるセレブなのだ。
私が住めるように支度をするとかで、結局移動するのは明日以降になってしまった。今日もここで過ごすことにはなったが、一人きりなのでそこは妥協した。
「さて」
今日は三日目。四日後には帰国するという未来が想像できなくて憂鬱になってきた。帰りのチケットはそもそも最初からもらってないのだ。ジョシュアにとっても、私との関係性を確かめる期間のはずだった。どうなることやら。
パソコンを開いてスマホも繋げた。スマホは二重にロックをかけておいたが、思った通り何度か解除が試みられていた。逆に怪しまれたかもしれない。双子の片割れが未だにつかまらないのには理由があるのだろうか。もう一度、監視カメラの映像をチェックしようと思ったがその前にメール着信に気づいた。以前、ホームページを作ってあげた会社からリニューアルしてほしいという依頼だった。暇だから受けることにした。
完全にお任せしますという案件なので、楽な仕事だ。その会社のことを知り尽くす必要はあるが、その工程が私の特技となる。知ってしまえばあとは自分の好きなように素材もそろえて作り変えるだけだ。万が一、気に入られなくても報酬がもらえないだけで自分の勉強にはなる。昼は適当にサンドイッチを作って食べ、余計なことを考えずに黙々とパソコンに向かっていたら、背後に人が立っていることにも気づかなかった。
「わ」
しまった。ここで慌てたら怪しすぎるので平然と作業を続けた。
「何してるの」
「え、一応仕事」
「へぇ。仕事してたんだ」
「そりゃ働かないと生きていけないからね」
時間を確認するともう夕方だった。ホテルでルームサービスを頼んでくれた。
「よくよく考えたら、何もあなたまでホテルに泊まる必要ないよね」
「なんでそんなこと言うの。いつも一緒にいたい」
僕が守らないと。と言わんばかりだ。守りたいと思うなら日本へ帰してくれ。そう思いつつも、こんな人に好かれている自分もまんざらではない。今は今で幸せなのかもしれない。楽しまないと。明日死ぬかもしれないのだし。死の気配で空港に降り立った時の違和感がまた襲ってきた。どうなったら腑に落ちるのだろうか。またここに居る意味が見出せない状態に陥るのか。
シャワーを浴びて、明日移動するための準備、荷造りをして寝室に入った。なんだかんだ体は動かしていなくても疲れた日だったが、ジョシュアが来たので思わず彼に触れてしまった。こんなキレイな人を独り占めしていたら、殺されてもしょうがないかも。と思いながらやっぱりこの人が好きだと思った自分を認めた。
幸せなはずの夜だったが、夢は最悪だった。
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