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シングルマザー卒業と独りよがり小説

小説0

投稿日: 2025年5月4日

「ルイ」

私が言うと、アニーがいつの間にという感じでこっちをみた。ルイの手には銃があった。

「ユキ久しぶり」

「迎えに来たよ。一緒に帰ろう」

「僕の居場所なんかないでしょ」

 

「お前は俺たちの家に来るんだ」

アニーが会話に入ってきた。

 

「黙っててくれない」

ルイが急に振り返りアニーに銃を向けて引き金を引いた。私は後ろからルイの手を蹴り上げた。

銃声が響いた。瞬間、ルイの銃口が私に向けられた。アニーは無事だ。確認するとルイを見た。

 

「こんなところで一人いつまでいるつもりなの」

「わかんない」

「一緒に帰ろう、私とやりたいことをしよう」

「やりたいこと?」

「何がしたい?」

 

ルイは笑いながら言った。

「ねえ、そんな嘘つくのやめてよ」

「嘘じゃない」

「僕を殺すつもりできたんでしょ」

「違う」

 

ルイが私の後ろを見ている。まずい。このテラスには柵も何もない。簡単にダイブできるのだ。

ここの夫婦はあの小屋で殺されたんだと気づいた。この家で死んだのなら、ここから落とせば簡単に処分できる。

 

「まさか、私がメッセージを送ったから殺した?」

「うん、邪魔だったから」

 

ああ、また私が殺したようなものだ。そっとしておけば良かったのだろうか。もうだめだ。この子はここで終わった方がいいかもしれない。じりじりと私の方へ来る彼をどうすることもできずに、私はテラスの端へ追い込まれてしまった。これではアニーも手出しできない。最悪、二人とも殺されてしまう。

 

「どうしたの」

「ルイ」

 

私は片目でアニーを見た。私がこの子を救いに来たことは知っているはず。

「アニー、約束守れないかもしれないけど、二人いるから大丈夫でしょ」

 

「何?」

 

ルイが私に体当たりした瞬間、私は思い切り彼を突き飛ばした。ルイがアニーの腕の中にすっぽり収まったのを見ながら、私は落ちた。

 

 

現場にダンがきていたので、許可を得て塔に向かった。エレベーターは壊れてしまったらしく、代わりに梯子がかけられていた。よじ登るよりは断然楽だ。俺とケイはてっぺんまで行くと、あの時とは少しだけ変わった、死体が無くなっているだけの部屋へ入った。ユキに言われて、ここから見える民家が無いか、確認しにきたのだが遠くに山が見えるだけで何もない。

 

「空振りか」

そうつぶやくと、ケイが望遠鏡を渡してきた。

「見てみろ」

言われた方を覗くと、削られた山の側面に建っているかのような家が見えた。民家か。まさかあそこに居るのだろうか。

 

「とにかく行ってみるか」

「ああ」

 

ちょっとまて、あれはユキじゃないのか。良く見えない。ケイに望遠鏡を返した。

「まずいぞ。あいつ、ガキと対峙してやがる」

数秒もしないうちに、ケイが叫んだ。

「あいつ」

 

梯子を下りて、車に乗り込んだ。ケイがいら立っている。

「あのガキ。ユキを道連れにして飛び降りやがった」

 

だが、結果的に彼女だけが落ちた。ということだ。はっきりとしたことがわからないまま山へ急いだ。やはり、ただのガキじゃなかった。あいつの読みは外れていたということか。

 

 

何が起こったんだ。ルイを羽交い絞めにしながら俺はユキを呼んだが返事はない。勘弁してくれよ。こんなガキの面倒まで押し付けて死んだりするなよ。だがここから落ちたら生きてるかどうか確かめようもないじゃないか。

 

とにかく、こいつを先にひねりつぶそうとしたが、出来なかった。失神させて近くにあった木箱に入れて蓋をした。テラスの端まで行って下を見た。何も見えない。

「嘘だろ」

俺は途方に暮れていた。こんな最後ってあるのだろうか。まさか。箱の上に座って茫然としていると、サムとケイがやってきた。

 

「どうなってる」

俺は答えられない。

「おい」

ケイがテラスへ出て絶句している。

「なんでこんなことに」

「ガキは?」

かろうじて俺は下に目線を下げた。サムは溜息をついて頭を抱えている。俺たちは無力だ。これからどうすればいいんだ。帰るだけなのか。この悪魔を連れて?

 

「冗談だろ」

ケイが俺を止めようとするが、俺は引かなかった。とりあえずこの崖を下りてみることにした。サムがダンからロープを借りてきてくれた。もっとちゃんとしたものなら1時間ほどで届くらしいが、1時間も待っていられなかった。

 

「引き上げはまかせた」

最悪、こんな命綱なんかぶった切ってくれてもいい。死んだ後のことなんかどうでもいい。正直、死んだあいつを引き上げに行くことになるのかと思った。

 

 

「あれ、もしかして死ぬのかな」

どれだけ岩肌を垂直に落ちたかわからない。でもツタのようなものが生えている部分でかろうじて落下せずに途中で引っかかっている自分を感じた。これ以上落ちないのは私がつかまっているからだが、もう手の感覚が無い。あそこまで上る気力もない。アニーもさすがに今回は諦めてくれたかもしれない。

 

なんで、つかまってるんだろう。私。死にたくないのかな。下から尊が呼んでいるような音がする。なんで尊は私に優しくしたんだろう。でも最後は私を置いて逝ってしまった。私は優しくなんかないけど、今、皆を置いて逝こうとしてるのかな。それはまずいかな。アニーに子供たちを押し付けて。これじゃアニーは一生、結婚できないじゃない。そんなこと望んでないのに。それに、約束があるし。

 

「しょうがない」

独り言をいってから、手に力を込めた。このツタは下手したら切れそうだ。何とか岩の突起に指を乗せて、少しずつ上にずらしていった。ものすごく長い時間、ロッククライミングしているように感じた。もう限界だ。何やってるんだか。バカバカしい。あんなに高いところが好きで、そこから落下することに憧れてきたのに。今がチャンスなのに。

 

そう思った瞬間、手の力が抜けて体が岩から離れた。ふわっと体が浮いたようになったその感覚を最後に楽しもうとした。手首に痛みが走った。目を開けるとアニーがいた。ああ。

最期にこんな幻覚をみるなんて、私は本当にこの人を愛してたのかもしれない。申し訳ない気持ちだけであんな約束までしたわけじゃない。

 

「おい、そっちの手でロープつかめ」

はっきりとした声が聞こえて我に返った。

 

「せっかく、いい夢がみられそうだったのに」

私がつぶやくとにかっと笑って彼が言った。

「俺は高所恐怖症になりたくないから早く上を向かせてくれ」

宙づり状態で私を掴んでいるので、相当辛いようだ。

「怪我してない?」

「こっちのセリフだ。自分の心配しろ」

 

そう言って状態を整えると、力強い腕で私を抱えてくれた。合図が上に伝わったのか、ゆっくりと上昇していった。何時間も経ったように思えたが、実際には数十分くらいだったようだ。テラスに引き戻され、3人の男性が引き上げてくれていたのを見届けると、自分の手が血まみれなのに気づいて吐きそうになった。これ当分シャワーも無理なんじゃない。改めて絶望の淵に立たされた感じがして言葉が出なかった。

 

手を悲しそうに眺めている私を見て察したのか、ケイが言った。

「風呂ぐらい俺が入れてやるから心配すんな」

 

「おい」

アニーが何か言いかけたが、彼も相当疲弊していたらしく二人とも無言で車に乗り込んだ。

 

終わってみれば計画通り数時間でこのミッションは終了した。ルイを家へ引き取ることは叶わなかった。彼は病院へ収容されておそらく一生そこにいることになるのだろう。あとは親に任せるしかない。養子とはいえ彼らには責任がある。少なくともルイはもう一人じゃない。

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