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シングルマザー卒業と独りよがり小説

短!小説

投稿日: 2024年12月7日

ろうそく管理人の仕事は、どこがその終わりなのかまったく想像もできないくらいの大きなドーム状の空間の中心に立っていることである。

 

自分の周りには、おそらく100億近い数のろうそくが所せましと並んでいる。 長いもの短いもの細いもの太いもの。これも数えきれないほどの形容詞がつき、それでも規則正しく11本が完全に自立している。

 

眺めは壮観だが、たいくつな仕事だ。

火が消えたりついたり、時にはどこからか水がかかって倒れたり、風が吹いて消えたり、それらを見ているだけだ。

正直、自分の視力の限界もあるので全部を見ることはできない。

 

もちろん、自分の意志でろうそくに息をかけたり、唾を飛ばしてみたりすることもできない。

では、なんのために自分はここにいるのだろう。

 

ろうそく管理人は、自らに課されたその役割の意義について考え続けていた。しかし、答えは出ない。ただ、「ここにいる」という事実だけが自分を支えているようだった。

 

 

ある日、ふと足元に目をやると、1本の小さなろうそくが揺らぎながらも輝いていた。その炎は極めて小さく、ほとんど消えかかっているように見えた。しかし、その炎が発する光には奇妙な温かみがあり、管理人はついじっと見入ってしまった。

 

 

すると、その炎がふいに言葉を発したように思えた。

「ねえ、どうして私の炎を見てるの?」

 

 

管理人は驚いて、思わず後ずさりした。しかし、そのろうそくの声は続いた。

「怖がらないで。ただ、あなたがここにいる理由を知りたいんじゃないの?」

 

 

何も答えられなかった。理由なんて自分でも結局分からないのだ。だが、小さなろうそくの問いかけには、何か真実があるように思えた。

 

 

「あなたが見守っているのは、ただの炎じゃないのよ」

と、ろうそくは言った。

「私たちの一つひとつが、誰かの『命』なの。あるいは、誰かの『思い』かもしれない。」

 

 

管理人は目を凝らし、遠くの無数のろうそくを見渡した。その炎が、実際に人々の人生や感情を象徴しているのだと考えると、何か大きな責任感と不思議な感動が胸に湧いてきた。

 

「でも、私は何もできない。ただ見ているだけだ。」

管理人のつぶやきに、小さなろうそくは柔らかく揺れながら答えた。

 

「見るだけでいいのよ。それがあなたの役割だから。私たちの光を認め、存在を感じてくれること。それだけで、私たちはここにいる意味を見つけられる。」

 

その言葉に、管理人は小さな変化を感じた。退屈だと思っていた仕事が、突然重みを持ち始めたようだった。

 

その瞬間、どこか遠くから大きな風が吹き込んできた。無数のろうそくの炎が一斉に揺らめき、いくつかは消えてしまった。しかし、それでも空間全体は相変わらず明るいままだった。

 

管理人はゆっくりと深呼吸をし、小さなろうそくを見つめた。

「ありがとう。少し分かった気がするよ。」

 

ろうそくは何も言わず、ただ静かに輝いていた。そしてその輝きは、周囲の無数の炎とともに、大きな一つの光となって管理人を包み込んだ。

 

そのとき、初めて気づいたのだ。この果てしない空間で管理人が守っているのは、ただの炎ではなく、「繋がり」そのものだったのだと。

 

管理人は小さなろうそくとのやり取りを経て、これは大事な、壮大な仕事なんだと少しだけ気を引きしめた。

とはいえ、相変わらず「見守るだけ」という受け身の立場には、なんとなく物足りなさを感じていた。

 

部屋の中なのに、風が吹いたり水が降ってきたりする。自分の仕事がそれらを阻止するようなことならまだしも、何もできないのだ。

いったい、自分を管理人として雇ったのは誰なのか。

 

神様なんていない。と日々嘆かれるその「神」そのものなのかもしれない。